第2期 オープンセミナー「今ここの未来」活動のご報告

会員部 茅根 明弘

第1弾 リワーク~心のリハビリテーション~(2017年11月4日SAT)

「リワーク(rework)」とは、ある程度まで回復した休職中のメンタル不調者を対象に、復職に向けたウォーミングアップを行ういわば“心のリハビリテーション”のことをいいます。職場へ戻る前に、数か月間専門の公的機関や医療機関などに通い、さまざまな復職支援プログラムを通じて再発リスクを軽減し、スムーズな職場復帰を実現するのが狙いです。

今回は、秦野病院精神科デイケアの元室長(現医療相談室室長)で精神保健福祉士の二宮雅之さんと、臨床心理士の栗林ちとせさんにお越しいただきました。本番が始まると、二宮さんは大好きなサッカーチーム湘南ベルマーレのネクタイを締めて登壇されました。そして冒頭、厚生労働省のデータ「精神疾患を有する外来患者の推移」を示しながら、気分障害やストレス関連障害の患者数が増えていること、さらに同省がまとめた「精神疾患の社会的コストの推計」において、経済的な損失は約3兆円にのぼることなどを背景に、8年ほど前からリワークプログラムを始めた経緯をお話しされました。

 

秦野病院の復職支援プログラムには、「日常生活支援」、「ライフスキル」、「プレ・ワーク」、「リワーク」の4つがあります。それぞれ対象者が異なってはいるものの、その人の状況に応じてカリキュラムを柔軟に組み合わせることができるそうです。そして、実際に現場で使用している自己理解を深めるためのツールを、グループワーク形式で行いましたが、みなさん和気あいあいと取り組んでいました。自分で自分をどう思っているか(セルフイメージ)と、他人が自分のことをどう思っているのか(他者イメージ)。通常この2つのイメージにはギャップがあるものです。「おどおどしている」姿が、周りの人からは「落ち着きがある」と思われているかもしれません。いわゆる“本当の自分”とは、これらを足したもの、あるいは足して2で割ったものだとしたら、過剰な自己卑下も自己愛も不要になり、肩の荷が下りて気が楽になりそうですね。

「セルフケア」の大切さを強調されたのも、今回のセミナーの特色だと言えます。二宮さんは「セルフケアにおいて、最初に大切なことは、自分の心が調子の良い状態から、調子のよくない状態になったこと(なりそうなこと)に自分で気づけること」と語ります。好調な時と不調な時。その違いはどこにあるのか。それぞれを数値化して自分をモニターし、「今は、あまり良い状態とはいえないな」そう感じたら無理をせず、温泉、森林浴、アロマ、ジョギングなど、自分に合ったストレス解消法を試すのがお奨めです。「セルフケア」はストレス対策の基本であり、上司であろうと部下であろうと、よく整えられた自分があってこそ、周りに対する気遣いもできれば、将来について明るい展望を描くことも出来る、そのようなメッセージを私は受け取りました。

二宮さんオリジナルの「KYゲーム」もユニークでした。「職場の苦手な同僚がやたらと話しかけてきて困る」といった“お題”に対し、いつもの応答と本当はこう言いたいという2通りの表現を書いて、それぞれの実現度や有効度、すっきり度を目盛にプロットし、本音と建前がどれほど乖離しているのかを見積もります。その距離感に応じて適切な伝え方を模索するというワークはとても実践的で、個人でもグループでも使える上に、かなりしみじみ感のあるものでした。
 
最後に、復職に失敗する人(再発してまた戻ってくる人)と成功する人の違いは何かという話題になりました。復職したものの、ほどなくしてまたリワーク施設のお世話になるような人には、過去の自分や今の自分、他者の意見やアドバイスなどを、“受け入れられない”という共通要素があるそうです。そのような人には、「自分を客観視することや、自分自身のみならず他人を含めた環境と折り合いをつけることが必要ですね」とお話しされていました。一方、自分の振り返りができる、周りの評価を受け入れて折り合いをつけられる、プログラムなども“自分事”として取り組むことができる人は、骨折をすると却って骨の強度が増すようにストレス耐性が向上して、スムーズに復職されるそうです。全国に数百人のお弟子さんを持つというある三味線の名人が、「早く上達するのは、どのような人でしょうか」と尋ねられた時、直ちに「素直な人です」と答えたエピソードを思い出して、たいへん興味深く伺いました。
<アンケートより>
・リワークの目的・支援内容についてよく分かりました。セルフケアについて自分自身やっていこうと思います。
・グループワークしてみて、他の人の考え方に良いものを見たりできて、まさに自分への気づきの機会となりました。
・理論だけではなく、リアルな治療の場の講義が面白かった。
・実際のプログラムを体験できてよかった。自分自身を深めるきっかけになりました。
  
 
「自分自身の考え方、得意なこと、自分自身の特徴」について見つめる場

 

第2弾 人間力を高めるコーチング(2017年12月24日SUN)

アメリカ合衆国の大統領は、公務の時によく赤いネクタイを締めていますね。それは“パワータイ”とも言われ、活力や情熱、勇気などの印象を与えます。本番直前に資料の最終確認を提案するくらい情熱的なプロコーチの伊藤さんも、赤いネクタイと赤いベストをしっかり身にまとっていました。赤がお好きなのだそうです。

伊藤さんの隣にいらっしゃるのは奥様。プロの音楽家です。チェコ語で“虹”を意味する『ドゥハ』という名の木管五重奏団で、ご自身の背丈ほどもあるファゴットという楽器を演奏されています。途中からペアワークのサポートに入っていただきましたが、にこにこと笑顔の絶えない方でした。
 
「人生の中で、欲しいものや達成したい目標は何ですか?」そう訊かれたら、あなたはどのように答えますか?そりゃあ、金だよ。健康な体に戻りたい。海が見える一軒家が欲しい。素敵なパートナーと結ばれたい。○○大学合格!などなど、人によってさまざまな回答がありそうですね。しかし伊藤さんは、「私たちが欲しいと思っているのは、そうしたものではありません」と不思議なことを言います。「私たちが本当に欲しいのは、“感情”なのです」
 
例えば、宝くじに当たって数億円の金を手にしたとしましょう。その瞬間に味わう感情には、(欲しいものが何でも買える)“喜び”や“満足感”、(好きなことをして遊んで暮らせる)“解放感”、(これで一生食べていける)という“安心感”に包まれる人もいるでしょう。あるいは反対に、(泥棒に入られたらどうしよう)などとかえって“不安”に感じ、(みんなオレの金を狙っていやがる)と“猜疑心”に捉われるかも知れません。しかし、これは後から出てくる感情であって、当選の瞬間はおそらく“有頂天”ではないでしょうか。
 
いずれにせよ、すべての夢や目標には、それを達成したときに味わうであろうポジティブな感情が付随しています。この感情のことを一次目標といい、これこそが本当に得たいものであると伊藤さんは力説しています。そしてこの感情を、私たちは自家発電できるそうです。キーワードは、「トライアド」。次の3つの使い方を日常生活の中で工夫してゆけば、望ましい人生を送ることができます。
①フィジオロジー(身体の使い方。表情や声、ボディーランゲージ、呼吸など)
②フォーカス(意識の使い方。思い出すのは楽しいこと?嫌なこと?どちらに焦点を当てていますか)
③ランゲージ(言葉の使い方)。
それぞれの割合は、順番に55%、30%、15%。①がもっとも大切で、このことをコーチングの世界では「フィジオロジーファースト」(身体の使い方が最優先)と呼ぶそうです。
 
トライアドの説明を伺いながら、筆者は「身口意の業(しんくいのごう)」という仏教教理を思い出しました。身はフィジオロジー、口はランゲージ、意はフォーカスです。この三つの組み合わせによって“業(カルマ)”の性質が決まり、それは蓄積されて来世の宿命となる。…「人生の質は、日常感じている感情の質です」と、伊藤さんは語気を強めました。私たち一人ひとりが、味わいたい6つの感情(シックスヒューマンニーズ:安定、変化、愛と連帯、重要感、成長、貢献)を得るために、この人生のすべての時間が与えられているのかも知れません。
 
フォーカスを変えるのに有効なのが、「質問」。多様な質問を繰り出してクライエントの視点を変え、気づきを引き出すのがコーチングの醍醐味の一つです。今回は、受講者の皆さんにそのエッセンスを体験していただこうと、あらかじめ質問が書いてあるシートを用意し、それをもとにペアワークを実施しました。私たち産業カウンセラーは、養成講座を通して傾聴技法をしっかり学んでおり、“聴く力”は人並み以上に優れていると自負しています。一方で、指導者からは「興味本位の質問はしないように」などと教わってきたため、人によってはそれが足枷となり、質問してはいけないのだと思い込んでいる節もあるようです。しかし“質問力” は、カウンセリングにおいても非常に有効な対人支援スキル。ここぞ、という時に適切な質問をして、クライエントが洞察を深めるきっかけ作りに貢献したいものです。
 
質問には、他者からされるものと、自分が自分に向けてするものと2種類あります。後者を「プライマリークエスチョン」と言いますが、広義には質問だけでなくひとり言や頭の中のつぶやきなども含まれます。私たちは、毎日そのような意識的または無意識的な“口癖”を、どのくらいツイートしていると思いますか。なんとその数、3万回。諸説あるので、中には5万回と言う人もいます(一体どうやって数えたのでしょうね)。
 
不用意に繰り返された口癖は、「ビリーフ」(思い込み、信念)や「アイデンティティ」(自分とはどのような人間であるか)を形作り、やがてその人の運命を大きく左右します。逆に言えば、自分の人生を優れたものに変革できる強力な武器を、私たちはすでに持っているのです。姿勢を整え呼吸を深くしながら、質問によって気持ちを明るくし、ポジティブな言葉を照明弾のように打ち上げて自分の前途を照らすこと。伊藤さんは、歌手の松田聖子さんのエピソードを紹介してくれました。駆け出しの頃、彼女は毎日鏡に映った自分に対して、力強く宣言していたそうです。「私はトップアイドルだ!」
 
今こそ、ご自分にはっきりと質問しましょう。「人生の中で、欲しいものや達成したい目標は何だろうか?」
<アンケートより>
・とても勉強になりました。自分もコーチングしていただいて、目標のためにどうするか考えてみたいと思います。
 何時間も学ばれたことを、教えていただいてありがとうございました。
・ちょうど、来年実現したいことがあるので、とてもやる気になりました。ありがとうございました!
・コーチングが、とてもパワフルなものだと知ることが出来ました。
 
新しい人生への準備はいいですか?
『伊藤宏治』(https://www.facebook.com/procoachito
『アンソニー・ロビンス』(https://www.youtube.com/watch?v=o6S9uIqfFHc
 

第3弾 カウンセラーの玉手箱(2018年2月17日SUN)

今回は、企業内カウンセラーとして働きながら神奈川支部会員部のスタッフもしている私、茅根明弘(ちのねあきひろ)が、僭越ながら講師を務めさせていただき、この報告記事も書かせていただいております。
 
辞書を引くと、“玉手箱”には浦島太郎が持ち帰った手箱の他に、「(比喩的に)すばらしいもの、珍しいものが多くあること」という意味もあるそうです。当初は仮題のつもりだったタイトルですが、この言葉に気をよくしました。一つの心理療法やメソッドを掘り下げてお伝えするのであれば、他にもっとふさわしい方がいます。そうではなくて、セルフケアと対人支援に関するさまざまなアイディア、知見、気づき、モノの見方などをバイキングスタイルで惜しみなく並べ、受講された方が気に入ったものや使えそうなものを持ち帰って、それぞれの生活シーンで活用していただき、ひいてはその方の既成概念や価値観と化学反応を起こして、新しい視点を生み出す一助になればいいという思いでした。
 
冒頭、昨年度よりスタートしたオープンセミナーの報告記事の紹介と、“今ここの未来”というコンセプトタイトルの由来をお伝えしました。コメットハンター(彗星探索家)木内鶴彦さんの臨死体験によれば、今ここの瞬間に、未来の自分が訪れているかも知れないのです。ご先祖以外にも、未来の自分が今の自分を守護霊のように見守っているというファンタジーは、心強い気がしませんか?それにしても、不思議な話です。
 
それでは、当日のAGENDAにしたがって、内容を簡単にご紹介します。
 
Ⅰ『コミュニケーション』
アイスブレイクも兼ねて【絵を描くワーク】や【類人猿診断】をしました。コミュニケーションの語源はラテン語の「コミュニス」で、意味は「共通したもの」。簡単に言えば、コミュニケーションとは“共通点を探すこと”なのです。そのような観点からペアで【共通点探しワーク】もしました。お隣さんとの共通点がたくさん見つかったペアは、その後も仲の良い友達のように過ごされていました。
 
Ⅱ『自分を愛する』
“私”は、限りなく愛しい存在であることを実感するために、ワーク、動画の視聴(下記URL②と③参照)、物語の朗読をしました。朗読は<ハシノク王とマツリカ姫>(世界で一番愛しいのは自分ではないかと考えたマツリカ姫に対して、それでよいと釈迦が答えた話)と、<ひび割れた壺>(水汲み人足が天秤棒に担いだ壺の片方にはひびが入っていたが、それを利用して彼は道の片側に種を植え、壺から漏れる水によってたくさんの花を咲かせた話)。
 
Ⅲ『ストレスについて』
ストレスの基礎と、ストレス対処法(コーピング)の3つのコツをお伝えしました。①複数のストレス解消法を持つ。②物事の受け止め方を変える。③腹式呼吸(私たちは1日に3万回も繰り返している呼吸を、意識的に長く深くすることで穏やかさを取り戻せます)。その他ユニークな対処法として、柏手を打つ、ハイパワーポーズ、池乃めだか流セルフトーク、引き算コーピング、「これでいいのだ」 とつぶやく(TVアニメ“天才バカボン”に出てくるパパの台詞)などをお伝えしました。
 
Ⅳ『最強のストレス対処法』
ハンス・セリエ博士といえば、もともと物理学や工学の世界で使われていた“ストレス”という言葉を、医学的な概念として確立した功労者。その「ストレス学説」を、日本に初めて紹介した杉靖三郎教授が、晩年のセリエ博士に「ストレスに打ち克つ秘訣はあるのでしょうか?」と尋ねたところ、「それは、東洋の感謝の心です。あらゆる物事に感謝する習慣こそ、ストレスに強い心を育てるのです」と応えたそうです。これを“セリエ博士の感謝の哲理”と言います。今回のセミナーで、最もお伝えしたかったことの一つです。その“感謝の心”を養うために、私たちの命が多くの動植物の犠牲の上に成り立っていることや、私一人が生まれるために必要な祖先は、20代(約500年)遡ると100万人を超える話などをご紹介しました。
 
Ⅴ『あたたかさについて』
有名な寓話『北風と太陽』をもとに、人を変えるのは厳しさよりもあたたかさであることを確認して、「積算温度」という言葉をご紹介しました。これは、毎日の平均気温を一定の日数分合計したもので、植物や農作物の栽培管理と害虫対策に利用されています。例えばジャガイモの積算温度は1000℃日(どにち)。平均気温20℃の日が50日分必要(20×50)です。それでは、目の前のクライエントの積算温度は何℃日でしょう?企業内カウンセラーをしている私にとって、最も難しいのはプレゼンティーズム問題の解決です。長い休職を経て復職したものの、中々生産性のあがらない従業員のモチベーションを、どうすれば活性化できるのか。時には冷たい風を浴びせた方がよいのではないかと悩むこともあります。…その他、ハーロウの実験やライナスの毛布、一日一人の天使(中島らも)などをご紹介しました。ご興味のある方は、インターネットなどでお調べ下さい。
<アンケートより>
  • 一見まとまりないようで・・・でもやさしさあふれる内容が一致していました。感謝です。
  • 動画、心に響きました♪~普段感じる事、この動画や本で感じたことを玉手箱に表現した内容、私はおもしろい、これもありなんだと感じました。日常に変化をもたらすいい機会になりました。「今ここの未来」こだわりある意味深くある言葉だと知りました!
  • 案内ちらしの言葉に心留まり、どんな方かな、何か気付きがあればとの思いで参加しました。色々な視点(考え方、動画etc)で気付き多き時間をありがとうございました。資料がとてもまとまっていてわかりやすかったです。家族にも体験してみます。
  • カウンセラーとして働いていますが、クライエントの考え方を変えようといろいろ技法など駆使してしまいがちですが、動画を観ただけ、文章を読んだだけで、人はすぐに変わる、というのを体感しました。例え話などが有効、とこれまでも聞いていましたが、こういう事かな、と思いました。明日からのカウンセラーの仕事に大いに役立たせていただきたいと思いました。あたたかい気持ちになれました。ありがとうございました。
■参考文献リスト
  1. 木内鶴彦『生き方は星空が教えてくれる』サンマーク出版
  2. 千石真理『幸せになるための心身めざめ内観』佼成出版社
  3. 野口法蔵『これでいいのだ』七つ森書館
  4. 岡檀『生き心地の良い町』講談社
  5. 畑中映理子『最高のあなたが輝くセルフコーチング』グッドブックス
 
■視聴動画リスト ※すべてYoutube
①メトロノーム同期(https://www.youtube.com/watch?v=cc8vDE3qvwk
②ダヴ:リアルビューティー スケッチ(https://www.youtube.com/watch?v=E8-XKIY5gRo
③Because who is perfect?(https://www.youtube.com/watch?v=E8umFV69fNg
④ホームレス青年(https://www.youtube.com/watch?v=EohFm_9kEqc
 

第3期 第1弾 キャリアコラージュ(2018年5月20日SUN)

 

第3期 第2弾 ユマニチュードという視点(2018年10月6日SAT)